生成AIが追加された「ITパスポート試験シラバスVer 6.2」を解説(ストラテジ系)

2023年8月7日、IPAから「ITパスポート試験におけるシラバスの一部改訂について(生成AIに関する項目・用語例の追加など)」という案内がありました。

ITパスポート試験のシラバス改訂ですが、実はつい先日(7月10日)Ver 6.1に改訂されたばかりでした。ちなみにVer 6.1では『「システム監査基準」及び「システム管理基準」との整合を高めることを目的とした表記の変更』のみ行われています。

今回案内されたVer 6.2は、久しぶりに内容の追加があり、かつ、それが今をときめく生成AIということで、本稿では追加された内容をざっくり解説してみようと思います。

なお、IPAでは8月下旬にサンプル問題を公表する予定とのことですので、引き続き注目していきたいと思います。

いずれにせよ、シラバスVer 6.2が適用されるのは2024年4月からですので、それまでに試験を受ける予定の方は、気にせず今あるテキストで学習を進めてください!

ストラテジ系の改訂箇所

それでは、「ITパスポート試験 シラバス」Ver. 6.2(変更箇所表示版)に沿って、分野ごとに改訂箇所を解説していきます。ちょっと堅苦しいかもしれませんが、シラバスの階層が深いのでご容赦ください。色文字だけ注目していただければOKです

ちなみにマネジメント系については変更なしでしたので、今回はストラテジ系とテクノロジ系のみ解説します。

●大分類1:企業と法務/中分類1:企業活動/2. 業務分析・データ利活用
(3)データ利活用
 ② データ分析における統計情報の活用
【用語例】
精度と偏り,統計的バイアス(選択バイアス,情報バイアスなど),認知バイアス

以前までは後述の「14. ビジネスシステム/(4)AI を利活用する上での留意事項」にあった内容のうち、統計や解析で一般的に用いられる用語がこちらにまとめられました。

作為的なデータを見せる目的で、端から偏ったデータを集計している事例が、残念ながら世の中にはたくさんあります。結果を鵜呑みにせず、どのように集計されたデータなのかを見抜けるようになりたいですね。

●大分類1:企業と法務/中分類2:法務/4. 知的財産権
(1)著作権法
・AIが学習に利用するデータ,AIが生成したデータについて,それぞれ著作権の観点で留意する必要があること
(2)産業財産権関連法規
・AIが学習に利用するデータ,AIが生成したデータについて,それぞれ産業財産権の観点で留意する必要があること

●大分類1:企業と法務/中分類2:法務/7. その他の法律・ガイドライン・情報倫理
(2)情報倫理
・AIが学習に利用するデータ,AIが生成したデータについて,それぞれ個人情報保護,プライバシー,秘密保持の観点で留意する必要があること
【用語例】
エコーチェンバー,フィルターバブル,デジタルタトゥー

AIが利用したり、生成したデータの権利や関連する法令についての言及です。AIが生成したものだけでなく、「AIが学習に利用するデータ」にも注意が必要というあたりが肝でしょうか。

用語に関しては、閉鎖的なコミュニティ内で偏った意見が増幅されていく現象がエコーチェンバーです。そして、個人の好みや趣味でカスタマイズされたフィルターの作用で、SNSやニュースサイト、検索エンジンなどから偏った情報しか入ってこなくなる現象をフィルターバブルといいます。自分好みの偏った情報しか入ってこなくなる、という点でこの2つは似ています。

デジタルタトゥーは、ネットに公開した情報は本人の知らないところで拡散し、完全に消去することが難しいことを入れ墨(タトゥー)に喩えた用語です。

●大分類2:経営戦略/中分類5:ビジネスインダストリ/14. ビジネスシステム
(4)AI(Artificial Intelligence:人工知能)の利活用
 ① AI利活用の原則及び指針
【用語例】
AI利活用ガイドライン(AI利活用原則
 ② AIの活用領域及び活用目的
【用語例】
生成AI,マルチモーダルAI,ランダム性
【活用例】
AIサービスが提供するAPIの活用,生成AIの活用(文章の添削・要約,アイディアの提案,科学論文の執筆,プログラミング,画像生成など)
 ③ AIを利活用する上での留意事項
・AIを利活用する上での脅威,負の事例の理解
・AIの学習に利用するデータの収集方法及び利用条件,並びに出力リスク
・AIの出力データにおける,誤った情報,偏った情報,古い情報,悪意ある情報(差別的表現など),学習元(出典)が不明な情報が含まれる可能性
・AIの出力に対する人間の関与の必要性
【用語例】
説明可能なAI(XAI:Explainable AI),ヒューマンインザループ(HITL),ハルシネーション,ディープフェイク,AIサービスのオプトアウトポリシー

今回のシラバス改訂で一番追加項目が多かったのがこちらです。「生成AI」もここに登場します。AIをどのように利活用するかや、その際の留意事項を中心に作問されるものと予想します。以下、用語について順に説明していきます。

■生成AI
従来は学習したデータを活用したデータ解析や分析といった用途の多かったAIでしたが、これを創作用途に応用しているのが生成AIです。近年、ChatGPTで盛り上がっている文章生成、イラストや写真を生成する画像生成など様々な種類があります。

■マルチモーダルAI
直訳すると「様々な形式をもつAI」、つまり画像、音声、文章など、様々な情報を同時に扱うことができるAIのことです。人間の脳のように様々な角度から情報を捉え、分析を行うことができると期待されています。

■ランダム性
生成AIでは、同じキーワードから同じ物が生成されることはほぼありません。これは、意図的に「少し外れたデータ」を生成する仕組みとなっているからです。このことをランダム性と表現します。

■説明可能なAI(XAI:Explainable AI)
読んで字のごとくです。なぜこのような言葉が生まれたかというと、AIが普及して身近な存在になればなるほど、どういう仕組みなのかわからないものへの恐れや疑心暗鬼、事故や損害が生じた際の責任問題の発生などが考えられるためです。

■ヒューマンインザループ(HITL)
システムに人間を介在させることを意味します。このため「人間参加型」ともいいます。AI分野では、例えばAIに学習させるテーマを決めたり、学習内容の良し悪しをフィードバックすることなどがあります。

■ハルシネーション
幻覚という意味で、生成AIがもっともらしい嘘をつく現象のことをいいます。

■ディープフェイク
深層学習(ディープラーニング)と偽物(フェイク)を合わせた造語で、AIを用いて本物そっくりの画像や音声あるいは映像を合成する技術のことです。

長くなったので、テクノロジ系についてはページをあらためて解説いたします。
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