「ITパスポートは国家資格だから凄い!」
ITパスポート試験について調べていると、しばしばこうした表現を見かけます。また中には、「ITパスポートは国家資格じゃなくて、国家試験/検定です」と書いている記事も散見されます。でも、そもそも「国家資格」って、いったいなんなのでしょうか。そしてITパスポートは、本当に国家資格なのでしょうか。
そこで本記事はトリビア的に、この疑問を深堀りします!
文部科学省の定義
文部科学省のページによると、国家資格とは以下の定義になるそうです。
国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に従事すると証明される資格。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/07012608/003.html
つまり、この文を分解して
①国の法律に基づいていて
②各種分野における個人の能力、知識が判定され
③特定の職業に従事すると証明される資格
の3つを満たせば、「国家資格である」といえそうです。各要件について、順番に調べてみましょう!
①国の法律に基づいているか
ITパスポート試験は、その関連資格である「基本情報技術者試験」などとまとめて、「情報処理技術者試験」と総称されます。そしてこの情報処理技術者試験は、「情報処理の促進に関する法律」の第二十九条に従って、経済産業省のもとに設置されている試験です。
第二十九条 経済産業大臣は、情報処理に関する業務を行う者の技術の向上に資するため、情報処理に関して必要な知識及び技能について情報処理技術者試験を行う。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000090
以上により、ITパスポート試験は法律に基づいた資格です。よって、①の要件は満たしているといえそうです!
②各種分野における個人の能力、知識が判定される
試験なんだから「能力、知識が判定される」なんてあたりきしゃりきだろがい! とも思いますが、念のため公式サイトの文言を確認してみましょう。
iパスは、ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生が備えておくべきITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験です。
https://www3.jitec.ipa.go.jp/JitesCbt/html/about/about.htm
「基礎的な知識が証明できる」とはっきり書かれています。②の要件も問題なさそうですね!
③特定の職業に従事すると証明される資格
少し言い回しが分かりづらいですが、③は「特定の職業に就くにあたって、法律上必須になる資格」という意味です。
そして、残念ながらITパスポート試験は、この条件を満たす試験ではありません……。実際、ITエンジニアやWebデザイナーのみなさんの中にも、ITパスポートを持たずとも活躍されている方は、数えきれないほどいらっしゃいます。
「えっ? じゃあITパスポートって国家資格じゃないの?」
それがそうとも言い切れないのが、なんだかややこしいところなんです。
本記事冒頭で参照した文部科学省のページに戻ってみると、「国家資格」は以下の4種類に大別されていました。
A) 業務独占資格: 弁護士、公認会計士、司法書士のように、有資格者以外が携わることを禁じられている業務を独占的に行うことができる資格。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/07012608/003.htm
B) 名称独占資格: 栄養士、保育士など、有資格者以外はその名称を名乗ることを認められていない資格。
C) 設置義務資格: 特定の事業を行う際に法律で設置が義務づけられている資格。
D) 技能検定: 業務知識や技能などを評価するもの。
この中で、A、B、Cは③の要件が必要そうです。ですがDについては、③を満たさない試験でも要件を満たしそうですよね。
これを踏まえて考えると、「ITパスポート試験は、国が認める技能検定」とは言ってよさそうです。そして、この「技能検定」は、国家資格を大別したうちの1つとしてでてきた用語でした。つまり、「国が認める技能検定」の部分を「国家資格」と言い換えてしまって、「ITパスポート試験は国家資格」と言っても、まあ間違いではなさそう? ということになります。やや玉虫色ですが、これにて一件落着(?)ですね。
ちなみに、経済産業省の資格試験一覧ページにも、「情報処理技術者試験」がばっちりと載っていました。「ITパスポート」単体では載っていないため、やっぱりやや玉虫色ですが、ここからも、ITパスポート試験を国家資格といっても差支えはなさそうです。
かつては情報処理技術者試験は資格試験じゃなかった!?
ちなみに、「情報処理技術者試験は国家資格なのか」については、省庁の間でも一時期議論になったことがあったようです。
たとえば、2005年に経済産業省が作成した「高度IT人材育成メカニズムの構築に向けた検討課題(たたき台)」という資料のアーカイブには、
現行の情報処理技術者試験は、「情報処理に関する業務を行う者の技術の向上に資する」ことを目的とした能力試験であり(情報処理の促進に関する法律第7条第1項)、特定の業務に関する資格の付与を目的とした資格試験ではない。
https://web.archive.org/web/20160527080134/http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g61107b05j.pdf
と書かれていました。ここでは、ITパスポートに限らず、情報処理技術者試験全体を「資格試験ではない」と明言しているのです。2005年当時と現在とは、試験制度自体がかなり変わってきていますが、「そもそも資格ですらないの?」って思いますよね。
そんな皆さんには、先の引用に続く、次の文を読んでほしいです。
ここで、「能力試験」か「資格試験」か、という定義づけ自体に意義があるのではなく、高度IT人材の育成の観点から、IT産業人コミュニティあるいは情報産業自体が、この試験制度をいかに活用するのが望ましいかを考えることが重要。
先の資料の後、経済産業省は2006年7月20日に、「高度IT人材の育成をめざして」という資料を策定します。そしてこの中で、情報処理技術者のエントリ―試験として「ITパスポート試験(仮称)」を新たに実施する旨が記されました。つまり、ITパスポート試験は「能力試験か資格試験か」という些末な定義にはこだわらずに(笑)、「IT人材を育成する」という実用的な用途を期待されて設置された試験、ともいえそうです。
その後、2009年春季に初回試験が行われたITパスポートは、2022年現在、年間20万人が受験する大きな試験になりました。
これは、何より受験生達にとって、ITパスポート試験が魅力的に映るからこそ、成し遂げられる数字だと思います。本試験は、「国家資格だから凄い」のではなくて、「ITを理解するにあたって有用だから凄い」のです。
そしてまた、ITパスポート試験がここまで有名になったのは、本試験が有意義なものになるように尽力してきた、試験関係者のみなさんの努力の賜物、ともいえるでしょう。
ちょっとした疑問でも、調べていくと意外とややこしく、かつおもしろいものですね。ITパスポートでもさまざまな用語が出題されますが、興味を持ったことを深堀りしてみると、より理解が深まるかも?※1※2
※1 特にIT用語は特に調べれば調べるほど沼にハマりがちなので、ご利用は計画的に!
※2 本記事の内容については、あくまで一個人が考察したもので、情報の正しさを保証するものではありません。
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